東京地方裁判所 平成8年(ワ)19818号 判決 1998年7月13日
原告
株式会社東和銀行
右代表者代表取締役
増田煕男
右訴訟代理人弁護士
海老原元彦
同
廣田寿徳
同
竹内洋
同
馬瀬隆之
同
島田邦雄
同
山田忠
被告
川崎汽船株式会社
右代表者代表取締役
川本洋
右訴訟代理人弁護士
木村宏
右訴訟復代理人弁護士
村田哲哉
被告補助参加人
トッド・トレーディング・ピーティーイー・リミテッド
右代表者取締役
ゴー・カイ・ギー
右訴訟代理人弁護士
根本博美
同
遠藤一義
同
奥山量
同
千代田有子
主文
一 被告は、原告に対し、一二三万〇一一八円及びこれに対する平成七年八月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用中、参加によって生じた費用については、これを一〇分し、その一を補助参加人の、その余を原告の各負担とし、その余の費用については、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
被告は原告に対し、金一六七四万六〇〇〇円及びこれに対する平成七年八月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、被告の振り出した船荷証券の裏書譲渡を受けた原告が、被告に対し、船荷証券債務の不履行に基づき、損害賠償を請求する事案である。
一 前提となる事実
1 当事者
原告は銀行業務等を目的とする株式会社であり、被告は海上運送事業等を目的とする株式会社である。
2 船荷証券の作成
被告は、平成七年七月二六日、別紙有価証券目録一及び二記載の各船荷証券を各三通ずつ作成し(以下、六通の船荷証券を併せ「本件各船荷証券」という。)、訴外大泉商会有限会社(以下「大泉商会」という。)に交付した。
3 裏書の連続
本件各船荷証券の裏面には、第一裏書人大泉商会、第一被受取人原告との記載がある。
4 原告の所持
原告は、本件各船荷証券を所持している。
5 本件運送品の引渡
被告は、訴外トッド・トレーディング・ピーティーイー会社(以下「トッド・トレーディング」という。)に対し、遅くとも平成七年八月一四日までに、本件各船荷証券が発行されていたことを知りながら、本件各船荷証券と引き換えることなく、本件各船荷証券が表章する荷物(以下「本件運送品」という。)を引き渡した。
6 損害賠償請求
原告は、被告が右のとおり本件運送品を補助参加人に引き渡したことにより、その引渡が受けられずに損害を被ったとして、本件各船荷証券に記載された運送品の引渡当時の時価を一六七四万六〇〇〇円と算出し、被告に対し、右同額の損害賠償を請求している。
7 除斥期間の延長
原告と被告は、平成八年六月二五日、国際海上物品運送法第一四条二項に基づき、本件運送品に関する被告の責任についての除斥期間を、平成九年八月七日まで延長する旨同意した。
8 不知文言の存在
本件船荷証券の「梱包の種類・荷物の明細」欄には、荷送人がコンテナに積み込み、計測したものであることを示す「SHIPPER'S LOAD AND COUNT」という文言及び荷物の内容は荷送人が通告したものであることを示す「SAID TO CONTAIN」という文言(以下併せて「不知文言」という。)が記載されていた。
そこで、被告は、この不知文言の存在により、本件運送品が船荷証券上に記載されている貨物と同一であることについて責任を負わず、本件各船荷証券には貨物の種類及び数量が確定的に表示されていないことになる、と主張して、原告の請求を争っている。
二 争点
1 不知文言が記載されている船荷証券の振出人は、その所持人に対し、証券上記載されたとおりの種類及び数量の運送品を引き渡す義務を負うか。また、本件において、被告が不知文言の効力を主張するのは、権利の濫用か。
2 原告は、本件運送品が本件各船荷証券の記載と異なることを知っていたか。
3 不知文言による免責が認められる場合、原告に生じた損害はいくらであったか。
三 争点1に関する当事者の主張
(原告の主張)
1 船荷証券は文言証券であり、運送人は船荷証券所持人にして船荷証券に記載された運送品を引き渡すべき義務を負うとされている(国際海上物品運送法七条、九条)。国際海上物品運送法においては、船荷証券の流通性に鑑み、船荷証券の文言性を非常に重視し、船荷証券所持人に不利益となる特約の効力を否定している(同法一五条一項、九条)。
これに対し、運送人は、従来から貨物の中身の確認ができないため、中身については知らない旨の特約を船荷証券の約款中に設けていたが、荷送人が貨物をコンテナに詰めて封印を施す運送形態の場合には、運送人は、貨物の中身ばかりでなく、貨物の包装や個数についても確認できない。そこで、荷送人積み込みのコンテナについては、貨物の包装や個数についても知らない旨の留保をするため、運送人は、コンテナのシールが受け取ったときと同じ状態で船荷証券の所持人に引き渡せば、コンテナの内容品のいかなる損害についても責任を負わない旨を船荷証券の約款に記載するようになった。これが不知約款であるが、不知約款の代わりに船荷証券の表面に不知文言が記載されることも多い。
このように不知文言は、運送人側の要請から一方的に記載されるようになったものであり、運送人が不知文言を記載したことによって、船荷証券記載の運送品の引渡義務を負わないとする解釈は、国際海上物品運送法一五条に照らし、許されないというべきである。
国際海上物品運送法は、船荷証券の流通性を確保すべく、品物の包み又は個品の数あるいは数量若しくは重量を記載した船荷証券を発行した以上は、その記載が不実なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗し得ないとして(同法九条)、船荷証券の文言証券性を非常に重視している。不知文言の抗弁を認めることは、国際海上物品運送法の趣旨に照らして重大な例外を認めることである。
船荷証券は、約束手形同様、それ自体金銭価値を有するものとして流通におかれることを前提として発行されるものであり、市場においてはそこに記載されている運送品の価値を前提として転々と譲渡されることが法律上予定され、現実にもそのようなものとして扱われている。船荷証券のこのような特徴は、まさに約束手形と同様であり、約束手形の記載が所持人の利益に解釈されるのと同様に、船荷証券の記載についても、矛盾する記載がされている場合においては、船荷証券所持人の利益に解されるべきである。
2 仮に、不知文言の抗弁を許すとしても、その抗弁の対抗は、限定的に認められるものに過ぎず、次のような事情に照らせば、船荷証券と引換に引き渡した場合に限定されるべきである。
海上運送を伴う物品の売買取引においては、海上運送人と運送契約を結んだ輸出者は、輸出代金の回収をはかるため、輸入者を支払人とする為替手形を振り出し、これに船荷証券等を添付して荷為替手形とし、自己の取引銀行に取立を依頼する。この場合の取立依頼には、船荷証券等を為替手形の支払と引換に引き渡すとする支払渡条件と、為替手形の引受と引換とする引受渡条件とがあるが、いずれにしても輸入者が為替手形を引き受けない限り船荷証券を取得することはない。もし、運送人が船荷証券を取得していない輸入者に対して運送品を引き渡すことを許せば、船荷証券の所持人につき損害を生ぜしめることは明白である。したがって、船荷証券の受戻証券性は、最大限尊重されなければならない。運送人においても、この受戻証券性の重要性は当然了知していることであり、船荷証券と引換でなく運送品を渡すことは、故意に船荷証券所持人の権利を侵害するものであり、その違法性は重大である。
不知文言を認める学説においても、船荷証券と引換に運送品を引き渡した場合に免責を受けられると解しているに過ぎない(菊池洋一「改正国際海上物品運送法」参照)。
不知文言の抗弁を認めることは、船荷証券所持人の利益を犠牲にし、ひいては船荷証券に関わる書類取引制度自体を大きく揺るがすものである以上、運送人として当然果たすべき義務を守らず、真の所持者が別にいることを知りながら、あるいは当然に予測しながら、船荷証券を所持しない第三者に引き渡した場合にまで免責を認める必要はない。
3 本件において、被告は、自ら補助参加人を唆し、運送品の引渡をしている。すなわち、被告は、本件運送品の受取を拒否して日本に返送しても受取人が現れるものとは思われないなどと根拠のない忠告をし、コンテナの使用料及び倉庫料がかさむだけであるから、本件運送品を受け取るように唆し、補助参加人の本件運送品を受け取らせたものである。
他に証券所持人が存在することが明らかである以上、故意に船荷証券を所持しない者に本件運送品を引き渡すことは横領ないし背任行為という重大な違法行為に当たる。ましてや、自ら補助参加人を唆して右違法行為を共同して行っているのであるから、その行為は強度の違法性を帯びている。それにもかかわらず、被告が、船荷証券上の不知文言の存在を理由に免責を主張することは、権利の濫用である。
(被告の主張)
1 船荷証券は、文言証券ではないが、仮にその文言性を認めたとしても、船荷証券上に不知文言が記載されると、船荷証券上受け取った貨物の種類及び数量が確定的に船荷証券に表示されたことにならなくなるから、貨物の種類及び数量が表示されていない船荷証券としてその文言性を考えることになる。したがって、当該船荷証券は、貨物の種類及び数量の記載のない船荷証券として機能するわけである。
2 国際海上物品運送法九条は、不知文言の有効性に影響を与えるものではない。すなわち、同条は、「船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗できない。」と規定しているが、不知文言の意義は、同文言により貨物の種類及び数量が確定的に船荷証券に表示されたことにならない、ということにあって、船荷証券の記載が善意の所持人に対抗できるかどうかの問題ではない。すなわち、不知文言により、種類及び数量が確定的に船荷証券に表示されたことにならないので、運送人は、船荷証券上種類及び数量の表示がないものとして、所持人に対していかなる運送品がコンテナに詰められたかを証明することを要求できると考えるべきである。
3 原告は、不知文言が運送側の要請から一方的に記載されるようになったものであると結論づけているが、誤りである。不知文言は、貨物の中身を覚知できない梱包状態において、運送人と荷送人の利益の調整の結果生まれたものである。
仮に、不知文言の有効性を否定したとするならば、運送人は中身を覚知できない梱包状態にある貨物については、梱包を開梱し、中身を検査した後でなければ貨物の受取を拒否することにせざるを得ない。そうなれば、貨物の運送に莫大な費用と時間を要することになり、運送実務が大混乱に陥ることは明らかである。
他方、不知文言に文字どおりの効力を認めたとしても、船荷証券所持人の利益を害することはない。不知文言の付されている船荷証券を譲り受ける場合、船荷証券に記載されている貨物が真実船荷されていることを担保するため、当該貨物が間違いなくコンテナに積み込まれたことを証する書類を共に要求すればよい。現に本件においては、荷受人たる補助参加人は、「日本の免許を得た検査人からの貨物に関する証明書」を添付することを要求しているのである。このような証明書があれば、証明書記載の貨物と異なる物がコンテナに積み込まれるという危険を容易に回避することができるし、また、貨物の種類及び数量を証明することも容易になる。
4 原告は、不知文言の有効性を認めるとしても、それは船荷証券と引き換えに引き渡した場合に限定されるべきである、と主張するが、根拠がない。船荷証券の呈示を受けずに運送品を引き渡すいわゆる「空渡し」あるいは「保証渡し」は、船荷証券が様々な理由により船舶の到着より遅れた場合において、荷受人及び運送人の便宜のために行われている慣行であるが、後日荷受人と別な善意の船荷証券所持人が現われたときは、船荷証券所持人に対して、債務不履行あるいは不法行為に基づく損害賠償責任を負う。しかし、その賠償責任の内容は、船荷証券所持人に本来引き渡すべき運送品の価値に相当する金銭の賠償であることは当然である。そして、不知文言が記載された船荷証券の所持人は、不知文言の効力により、本来、当該コンテナに詰め込まれた貨物の種類及び数量を証明する必要があり、証明された貨物の引渡を要求できるにすぎないのであるから、空渡し等がされたために所持人に対する責任が拡大するという解釈は根拠がない。原告は、空渡し等は船荷証券の受戻証券性に対する重大な侵害であるから、そのような違法行為に対しては、不知文言の効力を認めるべきでないというが、不知文言の効力は船荷証券上の記載をどう評価するかという一般問題であって、場面を異にする。
また、原告は、不知文言を認める学説においてさえ、船荷証券と引換に引き渡した場合にのみ免責を受けられると解しているとするが、原告が挙げる記述は責任制限額を算定する場合の解釈であって、そこから原告主張のような解釈を引き出すことは飛躍である。
5 原告の権利濫用の主張も理由がない。
まず、被告が補助参加人を唆し、運送品を引き渡したとの事実については、否認する。被告としては、荷受人たる補助参加人の強い要請があったからこそ、後日他の船荷証券所持人から損害賠償請求される危険について保証という担保を出させて、要請に応じたものである。
仮に、被告が補助参加人を唆し、船荷証券の呈示を受けずに運送品を引き渡したとしても、被告の責任の内容は、損害賠償責任論一般の問題として考えればよいことであり、不知文言を援用することが権利濫用であるということになるわけではない。
四 争点2に関する当事者の主張
(被告補助参加人の主張)
1 原告は、代金決済のため、本件運送品の売買の信用状(以下「本件信用状」という。)を買い取り、信用状開設銀行である訴外スタンダード・チャータード・バンクにその決済を要求した。本件信用状の決済条件として、日本の免許を得た検査人による「コンテナに本件商品を積み込む前、同商品を検査し、当該商品の型及び台数がインボイスと相違ない」旨の証明書(以下「証明書」という。)を取得することが要求されているが、原告は証明書を取得しなかった。
2 証明書が必要なことは本件信用状上明らかであり、買取銀行である原告が見落とすはずはなく、原告は、本件運送品が本件各船荷証券記載の品より価値が劣ることを知りながら、本件信用状を買い取ったといわざるを得ない。
3 よって、原告は本件各船荷証券取得当時、本件運送品が本件各船荷証券が表章する荷物と異なることを知っていたものであるから、善意取得者として本件各船荷証券記載どおりの権利を保護されることはない。
(原告の主張)
補助参加人の主張はすべて争う。
五 争点3に関する当事者の主張
(原告の主張)
1 本件運送品の内容は、現実には次のとおりであった。
別紙有価証券目録一記載の船荷証券分
中古ヤマハモーターサイクル一七台
中古ホンダモーターサイクル一四台
中古スズキモーターサイクル一五台
別紙有価証券目録二記載の船荷証券分
中古ヤマハモーターサイクル一一台
中古ホンダモーターサイクル一〇台
中古スズキモーターサイクル二二台
計 八九台
2一 本件運送品の時価は、本件運送品の売価が一台当たり五万円を下らないことから、八九台に五万円を乗じた四四五万円を下らない。
二 仮に、原告が右の損害を受けていないとしても、本件運送品の本来の買主は訴外スーン・スーン・インポート・アンド・エクスポート・カンパニーであり、被告補助参加人は本件運送品を訴外スーン・スーン・インポート・アンド・エクスポート・カンパニーに転送し、平成七年九月六日、一万二九三五米ドルの送り状を送付した。よって、本件運送品の時価は、右同日、一万二九三五米ドルを下らない。
平成七年八月一三日当時の米価対円の換算相場は一ドル当たり九五円一〇銭であり、これに右一万二九三五米ドルを乗じると、本件運送品の時価は、一二三万〇一一八円となる。
三 仮に、原告が右の損害を受けていないとしても、被告補助参加人は、平成七年八月一三日、訴外スーン・スーン・インポート・アンド・エクスポート・カンパニーから五〇〇〇ドルを受け取った。よって、本件運送品の時価は、五〇〇〇ドルを下ることはない。
右五〇〇〇ドルを2で述べた為替相場で円換算すると、本件運送品の時価は、少なくとも四七万五五〇〇円を下回ることはない。
(被告補助参加人の主張)
1 本件運送品が、原告主張のとおりであったことは認める。
2 補助参加人が、原告の主張2二及び三記載のとおり、送り状を送付し、現金を受け取ったことは認める。
その余の主張は争う。
第三 当裁判所の判断
一 不知文言そのものの効力について
国際海上物品運送法九条は、「運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することができない。」と規定し、船荷証券が原則として記載された文言どおりの効力を有することとしている。しかしながら、乙第一ないし第八号証により認められるように、海上運送の実務においては、運送人が運送品の中身を確認することができない場合があり、このようなときに中身を確認しない以上船荷証券への記載に応じないとすれば、流通が阻害されるため、運送人において、船荷証券に不知文言を付した上で、荷送人が通告する中身である旨を記載した船荷証券を発行するという慣行が行われてきた。そして、このような不知文言が付された場合には、船荷証券の文言に応じた効力の例外として、運送人は、船荷証券の所持人に対して証券に記載されたとおりの運送品があったことについて責任を負わない、換言すれば、運送品が何であったか表示されていなかったのと同様に扱うこととされ、学説もこのような解釈を支持してきた。
国際海上物品運送法も、このような慣行に鑑み、運送人、荷送人などの利害を調整する趣旨の規定を置いている。すなわち、八条一項において、運送品の種類、運送品の容積若しくは重量又は包若しくは個品の数及び運送品の記号は、荷送人から書面による通告があったときは、原則として通告に従って記載しなければならないとし、二項において、その例外として、通告が正確でないと信ずべき正当な理由がある場合及び通告が正確であることを確認する適当な方法がない場合を規定している。この例外に当たるときは、不知文言、留保文言などを付すことができ、これを付せば、運送人は、船荷証券の記載どおりの義務から免れるものと解されている(乙七、乙八)。
以上の説示から考えれば、本件における不知文言は、一般の場合と異なるところはなく、その効力を有し、運送人である被告は、当然には本件運送品が船荷証券上に記載された運送品と同一であることについて責任を負うものではないというべきである(本件において原告の主張はないが、荷送人である大泉商会から運送品の種類等について書面による通告があったとしても、封印されたコンテナによる運送であったことに照らせば、例外に該当し、不知文言を付すことができたものといわざるを得ない。)。
原告は、この点に関し、前記第二の三の原告の主張1のとおり主張し、不知文言そのものの効力を否定すべきであるという。しかしながら、この主張に対する被告の反論、とりわけ被告の主張3に述べるところは、説得力がある。原告は、その主張を裏付けるものとして甲第五号証を提出するが、これは主として信用状取引という銀行業務から見た不都合を強調するもので、不知文言の効力そのものについてこれを否定すべき積極的論拠を提示するものとはいえず、従前の解釈を変更する必要を感じさせるほどのものではない。これらの点及び前述したところに照らせば、原告の主張は、結局独自の主張であるといわざるを得ず、当裁判所は賛成することができない。
二 不知文言の本件における適用について
原告は、不知文言の効力を認めるとしても、船荷証券と引換に引き渡した場合に限定するべきであると主張する。しかしながら、原告の主張は、運送人が不法な行為を行って損害賠償責任に転化する場合には、懲罰的な意味合いから不知文言の効力を否定し、運送人の責任を拡大するべきであるということに帰し、その根拠がない。この点は、被告が反論するところが正当であると考える。
次に、原告は、不知文言を理由に免責を主張するのは権利の濫用であると主張する。しかしながら、原告が主張する被告の行為については、これを認めるに足りる証拠がないばかりでなく、仮にこれが認められるとしても、被告の不知文言の援用を認めずに、原告の本来有していた権利を超えた内容の損害賠償を認める根拠とはなり得ない。したがって、原告のこの主張も理由がないといわざるを得ない。
三 原告の損害について
右によれば、不知文言の効力が認められることになるから、原告は、現実に存在した運送品について損害賠償を求めることができるに過ぎない。そこで、本件運送品の内容を見ると、原告が補助参加人の主張を援用して主張するモーターサイクルであったことを被告も争わない。
原告は、本件運送品の売値が一台あたり五万円を下らないと主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はない。
次に、本件運送品の本来の買主が訴外スーン・スーン・インポート・アンド・エクスポート・カンパニーであること、被告補助参加人が、平成七年八月一三日、本件運送品を、訴外スーン・スーン・インポート・アンド・エクスポート・カンパニーに転送し、一万二九三五米ドルの送り状を送付した事実は、当事者間に争いがない。右事実によれば、本件運送品の時価が一万二九三五米ドルであったものということができる。そして、甲第六号証によれば、平成八年七月一三日当時の米価対円の換算相場が原告のとおりであったことが認められるから、右時価を日本円に換算すると、一二三万〇一一八円となる。
そうすると、原告が本件運送品の時価の一二三万〇一一八円であり、原告はその引渡を受けられないことにより、右同額の損害を被ったものというべきである。
四 以上によれば、本訴請求は、一二三万〇一一八円及び平成七年八月一五日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官相良朋紀)